意匠法改正によるホームぺージデザインへの影響は?

2019年5月10日、改正意匠法が可決成立し「物品に表示されていない画像」が意匠として保護されることになりました。施行日は2020年4月1日となる予定です。
これまでは意匠法で保護されなかった「ホームページのデザイン」を意匠として登録できて独占的な利用権が認められるようになります。

改正意匠法についての知識がないと、御社のホームページが「登録意匠を侵害している」と主張されて掲載停止を要求されたり損害賠償請求されたりする可能性があります。

今回は「そもそも意匠権とは何か」「意匠法改正によって何が変わるのか」「今後ウェブサイトを作成するときに意匠権を侵害しないためにどうしたら良いか」わかりやすく解説します。

1.意匠法とは?


そもそも意匠法とはどのような法律なのでしょうか?名前を聞いたことはあっても正確に理解できていない方も多いので、意匠法の基本事項を確認しましょう。

1-1.意匠権とは


意匠法は意匠権を保護するための法律です。
意匠権とは登録された「工業・産業デザイン」に対する独占的な権利です。
たとえば自動車やスマホ、家電製品や酒類の瓶などの「特徴的な工業用デザイン」が「登録」されると意匠権として保護されます。


意匠法で保護されるのは「工業・産業用デザイン」であって「芸術品」「ロゴや文字」「技術」ではありません。芸術品は著作権、ロゴや文字は商標権、技術は特許権として保護されます。

1-2.意匠権を侵害するとどうなる?


意匠権は独占的なデザインの利用権なので、登録意匠権者以外の人は勝手に他人の意匠を利用できません。無断で他人の意匠を利用すると、差し止めや損害賠償請求を受ける可能性があります。


また意匠法には刑事罰もあるので、悪質な無断利用をすると逮捕されて刑事裁判となり罰則を適用される可能性もあります。刑事罰の内容は10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金刑です。

1-3.意匠権として保護されるには「意匠登録」が必要


あるデザインを「意匠」として独占的に利用するには「意匠登録」が必要です。特許庁に出願して審査を受け「意匠権」として正式に登録されなければ保護の対象にはなりません。


ある人が特徴的な工業デザインを考案しても、意匠登録されない限り誰が使っても違法になりません。意匠権は著作権のように「登録しなくても自然に認められる権利」ではないので注意が必要です。

また1つの意匠の登録者になれるのは1人だけです。同じ工業デザインについて複数の出願があった場合「先に出願した人」が優先的に意匠権を獲得できます。

1-4.意匠として認められるための要件


現行法により「意匠」として認められるための要件は、以下の9つです。

・工業利用できるもの

意匠権は工業デザインを保護するためのものなので、製品などに利用できる工業用のデザインである必要があります。


・新規性のあるもの

まだ誰も使っていない新規性のあるデザインが保護の対象です。


・創作が容易でないこと

簡単には作出できないデザインが意匠権として保護されます。


・すでにある意匠の一部と同一、類似していない

すでに登録されている意匠の一部をそのまま使ったり類似していたりすると意匠登録されません。


・公序良俗に違反しない

社会の道徳観念に反するものは意匠登録されません。


・誤認を引き起こさない

他人の業務に関するものと誤解させる可能性のあるものは意匠登録されません。


・製品の機能確保のための形状ではない

製品の機能確保に不可欠な形状はデザインとして保護されません。


・最も早く出願した

同じデザインを複数の人が意匠出願した場合、先に出願した人が意匠権を取得します。


・1つの意匠につき1つの意匠登録

複数の意匠をまとめて1つの意匠権として登録することはできません。

2.2019年の意匠法改正の内容


2019年5月10日、意匠法が改正されて保護の対象が拡大されたことにより、ウェブサイトの制作や公開に大きな影響が及ぶ可能性があります。施行され実際に有効となるのは2020年4月1日の予定です。
意匠法の改正内容は以下の5点です。

2-1.保護対象の拡充

物品(工業製品)に記録・表示されていない画像、建築物の外観や内装のデザインが意匠法によって保護されるようになります。

2-2.関連意匠制度の見直し

自分の意匠(本意匠)に類似する関連意匠の出願可能期間が「本意匠の出願日から10年以内まで」に延長されます。関連意匠として登録できる意匠の範囲も広がります。

2-3.意匠権の存続期間の延長

従来「登録日から20年」でしたが、今後は「出願日から25年」に延長されます。

2-4.意匠登録出願手続の簡素化

複数の意匠の一括出願が可能となり、これまであった物品の区分も廃止されます。

2-5.間接侵害規定の拡充

意匠権を侵害する物を部品に分割して製造・輸入等することが禁止されます。

3.意匠法改正によるウェブサイトへの影響


2019年の意匠法改正により「工業製品(物品)に記録・表示されているデザインしか保護されない」という限定がなくなりました。
今後は「工業製品(物品)に表示されていないデザイン」にも意匠権が認められる可能性があります。これにより「クラウド上やネットワーク上の画像などのデザイン」が意匠権の対象となります。

ホームページの特徴的な画像やデザインが意匠権として保護される可能性があるのです。


「このサイトのデザインが素敵だな」と思って真似をすると、そのデザインが意匠登録されていた場合、権利侵害となって損害賠償請求されるリスクが発生します。

4.意匠権と著作権の違い、ホームページデザインとの関係


意匠権は著作権と異なります。
意匠権は、「工業デザイン」に認められる権利であり「出願して登録しないと発生しない」ものです。対象となるのは、実用品や工業・産業用のデザインです。


一方著作権は「思想や感情を芸術的に表現したもの」に認められる権利であり、出願などしなくても「作成した時点で当然に発生」します。対象となるのは絵画や写真、歌や文章、美術工芸品、ダンスなどさまざまです。

ホームページのデザインは「思想や感情を表現したもの」といいにくいので著作権を認めるのは難しいケースもありますし、似たデザインがたくさんあるときに誰に著作権が及ぶのか特定するのも困難です。一方意匠権として明確に登録されていれば、一人の権利者に独占的な利用権が認められます。


これまで自由に利用できた他人のサイトデザインの模倣が、今後は厳しくなる可能性が高いと言えます。

5.すでに公開されているホームページとこれから公開されるホームページ


意匠法改正によってホームページのデザインが意匠登録されて保護されると、今のあなたのウェブサイトのデザインが知らない間に誰かに登録されて、意匠権侵害になってしまうのではないか?と心配になるかもしれません。

そちらは心配不要です。意匠法では「出願前からデザインを利用している場合、その使用は違法ではない」ことになっているからです。これを「先使用権」といいます。意匠法改正前から使っているウェブサイトのデザインが誰かの権利を侵害する可能性はありません。


また意匠権として登録するには「新規性」が必要です。すでに公開されてあなたが利用しているデザインには新規性がないので、意匠登録しようとしても通らないでしょう。

ただし改正意匠法が施行された2020年4月以降にウェブサイトのデザインを導入する際には注意が必要です。そのデザインが意匠登録されていたら、知らずに利用したとしても意匠権侵害となってしまう可能性があります。

6.テンプレートを購入してサイトをデザインすれば安全か


サイトを作成するとき、テンプレートやテーマを購入してデザイン設定するケースが多いでしょう。


テンプレートを利用していれば意匠権侵害にはならないのでしょうか?


まず意匠権として登録するには「新規性」が必要なので、すでに公開されてテンプレートとして配布されているものについては意匠権登録できません。そこでこれまでに公開されているテンプレートを使っても意匠権の侵害にはなりません。

一方、2019年5月以降に公開されるテンプレートについては、意匠登録されてから公開される可能性があります。通常はテンプレートを配布する本人が意匠登録して意匠権者となっているでしょうから、本人から購入して利用する限り問題はないと考えられます。ただし今後、他人が意匠登録したテンプレートを勝手に販売する人が出てくる可能性があります。


今後ホームページのテンプレートを購入したり無料のテーマを利用したりするときには、意匠登録されていないかどうか、配布者が権利を持っているかどうかを確認してからにしましょう。


意匠登録されているかどうかはこちらのデータベースで調べられるので、よかったら利用してみてください。
https://www.graphic-image.inpit.go.jp/

7.ホームページデザインで注意すべき4つのこと


今後自社のホームページのデザインを検討するときには、以下のようなことに注意しましょう。


他者の使っているデザインを模倣したりテンプレートを利用したりするとき、対象のデザインが意匠登録されていないか確認する

確認を怠って自己判断でサイトを作成すると、意匠権侵害してしまう可能性があります。


自社でデザインを考案した場合でも、すでに誰かが意匠登録していないか確認する

自社で考案したデザインでも誰かが先に登録していたら意匠権侵害となります。


自社で新規のデザインを考案したら、意匠登録すべきか検討する

自社でまだ誰も登録していないサイトデザインを考案したら、意匠登録しておくと真似されるおそれがありませんし、真似されたときに差し止めや損害賠償請求ができます。販売できる可能性もあります。


自社で考案したデザインを意匠権登録する場合、サイト公開前に出願する

意匠登録するには新規性が必要なので、出願前にサイトを公開すると意匠権登録が不可能となる可能性が高まります。

今後のホームページ戦略の参考にしていただけましたら幸いです。

 

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この記事を書いた人:元弁護士 福谷陽子

京都大学法学部 在学中に司法試験に合格
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約10年の弁護士キャリアの後にライターに転身
現在は法律ジャンルを中心に、さまざまなメディアやサイトで積極的に執筆業を行っている

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